みそのかんずめ

堕落しきった御時勢の話題をドォンドォン言おうじゃねえか!(ふつうのブログです)

【東方小説】恋する人魚姫 第2話「人間と人魚の境」

暗い一室。その扉を開けて直ぐに科学医薬品の匂いが部屋全体に漂う。その充満された匂いの中わかさぎ姫とその姫が乗っている車椅子を押しながら進む影狼は静やかに入る。

数多く横一列に並んでいる試験管の中は火山のマグマようにポコポコ噴き出している。
部屋のあちらこちらにある、多少ながらの蝋燭の光が無ければ、完全に宵闇に包まれている室内の中に他の光よりも眩しい位置に魔法使いはいた。
「貴方が魔法使いですか?」とわかさぎちゃんは彼女が聞こえる程の小さな声で尋ねた。
声が部屋中に響き渡ると一時的の空白の沈黙が流れた。そしてしばらくして魔法使いは溜息を小さく一息吐きながら此方側の方へ振り向いた。
「この私に何か用?」紫色の長髪、ゆったりとした服装。彼女がかの魔法使い「パチュリー・ノーレッジ」らしい。如何にも訝しげな雰囲気を帯びていた。
 
堂々私がすべき事...私が人間になって夢の中で出会った男の人間に会いに行く事だ。私はそのためにわざわざここまで来たのだから。言わなくてはならない…私がここに来た理由を。
「…単刀直入に問います。私の尻尾を人間の足に変えてくれませんか?」
私は恐る恐る尋ねた。魔法使いに。すると
「いいわよ。」あっさりと返答してくれた。私は安心から気が付くと、安堵の溜息をした。彼女は話を続けている。
「何の事だか私には知った事じゃないけど…手を貸すことぐらいなら私は容易いわよ?ちょっと待って」自慢気に私の方を見ながらそう言った。思いほか話が分かってくれる魔法使いであった。
 
私は先程が座っていた車椅子から出て、普通の椅子に座っていた。そして、私の人魚の尻尾に細工するかのように魔法使いは撫で回すように触っていた。正直なところ、気心地の方はあまり良くなかった。何せ私はあまり人と接して触る事はあまり無いから尚更だ。
彼女は私の足に集中するかのように突如呪文を唱える。すると尻尾は紫色の眩い光に包まれた。まるで足の中に生物が潜んでるかのように少し擽ったい気分だ。そして魔法使いは呟くように唱える。魔法の暗示を。私にとって皆目分からない呪文であった。
その呪文を読み終えると紫の魔法使いは腕をグイッと上にあげ、そのまま下に降下した。
すると周りにいた紅魔館の住人は驚愕の顔に変貌する。私の尻尾が、今光に包まれていた尻尾が、その尻尾が突如身震いだす。尻尾は震える。戸惑うことなく震えだす。身の毛もよだつような感覚に襲われる。メキメキと疼きだしてガタガタも止まらない。そんな気持ち悪い振動が数十秒も続いた。そして...
突如煙の爆破をし、近辺白い煙に包まれた。少しずつ晴れていき皆の表情を確認すると、私と影狼ちゃん以外は全員この事を慣れているせいなのか平然とした表情であった。…あれ?なんだろう…?下半身に物凄い違和感が…
「できたわよ。」いつも通り事が済んだような言い草の一言を魔法使いは言った。
…恐る恐る下半身を確認すると、私の尻尾は魚の尻尾ではなく人間の尻尾…そう、人間の足に変わっていたのだ。そのことは私より近辺にいた影狼ちゃんがまず驚いた。「わかさぎちゃん!やったね!!」友達みたいな安直なセリフであったが、少し嬉しかった。だって私はやったんだ…ついに人魚の妖ではなく、人間としての妖怪になったのだ。
魔法使いにまずお礼しようと私は魔法使いの方へお礼を言った。「ありがとうございます」と。しかし魔法使いは哀れめいた表情で私を見つめながらこういった。
「人間としての活動は「3日間」としてね。」3日間___。限られた日数という制限の宣告を言い渡された。
魔法使いは次に私が言うセリフを見通すかのように「「なんで…?」と言いたいのでしょ?変幻魔法は身体に負担がかかる魔法で、完全に人間として生まれ変わるような変幻魔法じゃ後にくる過負荷と代償が大きい。だから応急処置用の魔法を使ったわ。数日間だけ人間として活動できる魔法をね。」と言った。魔法使いは間も開けないまま話を続ける。
「貴方、夢の中であった人間に会いたいのでしょう?その人と実際に会って、触れ合うといいわ。けれども、必ず「私は妖怪」と告げることね。」
…確かにそうだ。私は夢の中で出会った男の人間に出会いたいのだ。出会うだけでいい。私はあの人間に出会う。会う理由はそれだけでいいのだ。
「…ありがとうございます。」もう一度私は魔法使いに向けてお礼を言う。すると魔法使いは一つの疑問を私の方へ投げつけた。
「それで…その夢の男に会うにはどうすればいいのかしら?」…全くその事を考えていなかった。そう私は人間がなりたい思いで頭がいっぱいだったのだ。
「どうにかなると…思います…」私は魔法使いとは目を合わず不安げな声で言った。
 
屋敷の方へ退去した後、影狼ちゃんが騒がしいほどに私の足のことについて語っていた。「わかさぎちゃんすごいよぉ~!人間の足だよ!いつもなら車椅子を引きながら持っているのに今じゃ私と一緒に歩いている!例えたった3日間でもその男とだって近いうちに会うって!」
何の確証も保証もない発言であったが、私もそんな気がした。いつか会えるんじゃないかって…
__夜。空の一面は星空尽しであった。人間の足を手に入れたとはいえ、一応水の中に潜れる。童話のように水の泡にはならないらしい。私は水中の中で寝ながら考えた。夢の中で出会った人間の事を…眠りにつくまでずっと…ずっと…
 
 
 
…?
あれ…?
…暖かい?
水の中だというのに暖かく感じる。
温いという感覚でも程遠い感覚だ。
しかも地面は潤いのある地面の感覚ではなく乾いた地面の感覚がした。
私は自分の瞼をゆっくりと開いた。…まず見えたのは眩しい太陽と青空だった。眩しく一度は目を閉じかけたがまたじっくり開く。周辺を見渡しながらその次に見えたのは木。木。木。そう、森だった。
…どうやら私は森の下で倒れていたらしい。…え、森?森だって?!何故私はここで倒れているんだ!?私はさっきまで確かに水の中に…
そんな事を考えている内に人間の声が聞こえてきた。「オーイ誰かいるか?」声は男のような低い声だ。
あっやばい逃げなきゃ…と思ったが一つ気がついた事がある。足が立てられない。たって逃げたいのに逃げられない。逃げられないのだ。
結局人間が現れてしまった。「オイオイ…そんなとこで何をしてるんだ…?」私に問いかけるように一言行った。私は顔を上げられなかった。
「ああ…今立てられないんです。すいません…」謝罪の言葉しか出なかった。申し訳ない。そういう思いしか今の私にはなかった。
「お~立てられんのかぁ~ならよ」人間、いや男性は踵を返し座りながら背中を見せた。「載れよ」と私を背負う体制で言った。
「…え?いいんですか?」こんな私を優しくしてくる人がいるんだなぁと私は感謝の気持ちでいっぱいになった。私は遠慮なく手で歩きながら男性の方へ向かった。
「ま、気にするな!」おんぶした瞬間、その時やっと男性の顔を見れた。すると
「俺はァよ、人に親切するのが大好きだからァよ。」
その男は夢の中で出会った人間と瓜二つの顔つきであった。
 
間違いない。間違いないというか完全な確証もなく恐らくであるが、この世界はあの男の世界…私にとって「夢」の世界だろう。咄嗟に私は彼に夢の事を話そうと思ったが、あの男は私のことを知らないだろうと察したのでまだその事を話すのはよしとこう…
「うっし、そのまま俺の家で休んどけ」男はぼやくように言った。こうして私はそのままその男に連れて行かれながら森を立ち去っていた。
 
続く___